施設の中には日中、入り口を施錠していたり、複雑な操作をしないとエレベーターの開閉ボタンが使用できない仕組みになっていたりするところをよく見かけます。その理由の多くが、「認知症の人が勝手に外に出て迷子になったり、事故に遭ったりしないように」と考えているからのようです。
介護保険法の第1条では、法律が目指すところの「目的」として、介護が必要な状態となった人が尊厳を保持し、「有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう」にという点が強調されています。このことは介護保険制度に関わる人が一番大切にしなければならないと思います。
私たちの法人の施設では、鍵を掛けない、閉じ込めないケアを行っています。迷子になることや事故に遭うことを防ぐという理由は、もっともらしい理由に聞こえます。ですが、読者の皆さんにお聞きします。「自分だったらどうでしょうか」と。
多くの方は、鍵の掛かったところは嫌だ、と答えるでしょう。私自身は絶対に嫌です。自分は嫌だと思っていても、認知症になったら仕方ないのでしょうか?
百歩譲って、どうしても外に出てしまって危ない人がいるとしたら、その人に個別に対処すればよいことではないでしょうか。他の人まで同じ環境に置くことはいけないと思います。鍵の掛かった空間では、ご利用者は職員の顔色を見ながら生活することになります。なぜなら、鍵を開けてもらわなければ外に出られないからです。
自分の意思に関わりなく鍵の掛かったところでは、尊厳の保持や自立支援はできませんし、人としての生活そのものが営めません。
こんな環境を変えていきませんか。一方、施設も鍵を掛けて管理することを望んでいるわけではないと思います。認知症の人が歩いていたら声を掛けて見守り、安心して暮らせる地域づくりを広げていきませんか。